弁護士コラム

渋谷の法律事務所の解決事例:相手方が提示した解決金100万円に対し、婚姻費用を交渉の軸に据えて合計386万4967円の支払と年金分割0.5を実現し、調停を経ずに約4か月半で離婚を成立させた事例

相談事例
目次

ご相談の概要

ご相談者は30代の女性で、夫(以下「相手方」といいます。)との離婚についてご相談にいらっしゃいました。

ご相談者によれば、交際期間中、相手方からは年収の水準、借金がないこと、前婚の離婚原因は自身に非がないことなどについて、いずれも断定的な説明を受けていました。ところが婚姻後、それらの説明が事実と異なることが順次判明しました。すなわち、実際の収入は説明された水準に達したことが一度もなかったこと、相手方には相当額の借入があり弁護士を通じた債務整理の経歴があったこと、しかもその借入の原因についての説明自体が虚偽であったと相手方自身が認めたこと、前婚の離婚については相手方自身に不貞行為があり、複数の当事者から慰謝料請求を受けていたことです。

加えて、交際期間中はご相談者が住居費・光熱費・食費を含む生活費の大半を負担していたにもかかわらず相手方は一切負担せず、婚姻後も「共働きなのだから」として渡される生活費は限られた額にとどまっていました。さらに、異性関係やギャンブルを疑わせる事情が複数発覚し、収入・資産に関する資料の開示を求めても「離婚するのだから開示する必要がない」として拒否される状況でした。

ご相談者はご相談の直前に退職されており、別居後の生活費の確保が急務でした。お子様はいらっしゃいません。

ご相談者のご要望は、①離婚を成立させること、②別居中の生活費(婚姻費用)を確保すること、③受けた精神的苦痛に見合う金銭の支払を受けること、④相手方と直接やり取りをせずに手続を進めること

というものでした。

解決の方針と交渉の経緯

当事務所の弁護士がご相談者の代理人に就任し、まず相手方本人に受任通知を送付して、ご本人およびご親族への直接の連絡・接触を止めました。その後、ご相談者は別居を開始されました。

本件の方針を決めるにあたって重視したのは、「何を主戦場に据えるか」という点でした。異性関係を疑わせる資料は複数ありましたが、裁判所が不貞行為を認定するには立証のハードルが高く、そこに時間と労力を集中させるのは得策ではありません。他方、婚姻費用は、別居している以上、確実に存在する法的権利です。しかも相手方は高額の収入を得ており、算定される婚姻費用の月額は相当に大きくなります。そこで当方は、婚姻費用を交渉の中心軸に据えるという方針を採りました。

婚姻費用の始期については、実務上、金額を明示して請求した時点とするか調停を申し立てた月とするかで争いが生じ得ます。そこで当方は、受任後の早い段階で、直近年度の相手方の収入を基礎として算定した月額33万7000円という具体的な金額を明示した書面を送付し、請求時点を確定させました。あわせて、離婚と解決金300万円の支払も請求しました。

解決金の請求にあたっては、ご相談者が経験された事情を感情的に並べるのではなく、①年収についての虚偽の説明、②借金および債務整理の秘匿と、その原因についての虚偽の説明、③離婚歴に関する虚偽の説明、④異性関係、⑤生活費負担の不誠実、⑥結婚指輪等の履行の遅延、⑦ギャンブルの隠蔽、⑧情報開示の拒否、という八つの類型に構造化したうえで、それぞれについて具体的な事実を摘示して主張しました。

これに対し、相手方には代理人弁護士が就任し、次の二点を柱とする反論がなされました。第一に、相手方の収入は基本給と歩合から成り変動が大きいから、直近年度ではなく過去9年分の平均年収を基礎とすべきであるという主張です。第二に、同居期間中に手渡しで交付した金員は婚姻費用の前払いとしての性格を有するから、その分は控除されるべきであるという主張です。慰謝料については、慰謝料を発生させる事由はないとしつつ、早期解決のための解決金として100万円を提示してきました。

当方は、これらに対して次のとおり全面的に反論しました。

婚姻費用の算定基礎については、直近年度の収入を基礎とするのが確立した実務であり、9年分もの長期の平均を採用した裁判例は調査した限り見当たらないこと、相手方が平均に含める年度には現在の収入水準を全く反映しない古い年度が含まれていること、仮に平均値を用いるとしてもせいぜい直近3年分にとどまるべきであり、その場合でも相手方の主張額とは大きく乖離することを指摘しました。そして、法的根拠を欠く主張を特段の説明もなく行うことは、主張全体の信用性を損なうものであることも申し添えました。

既払金の主張については、金員がすべて手渡しで授受されており金額を確認する手段がないこと、仮に交付があったとしても各月の生活費として交付されたものであって将来の婚姻費用の前渡しではないこと、そして、過去に生活費として支払われた金員の性質を事後的に将来の前払いへと変更する法的根拠は存在しないことを指摘しました。仮にこのような論法が許されるのであれば、同居中に生活費を負担していた配偶者はすべて将来の婚姻費用を先払いしていたことになり、婚姻費用分担請求権の趣旨に反する不当な結論を招くことになります。

そのうえで当方は、明確な回答期限を設定し、期限までに全面的に受諾する旨の回答がない場合には速やかに婚姻費用分担調停を申し立てること、調停・審判に移行すれば解決までに相当の期間を要し、その間も月額33万7000円の支払義務が継続することを示して、早期の話し合いによる解決が双方にとって合理的であることを伝えました。

相手方は、回答期限の当日に、当方の条件を全面的に受諾しました。

解決の内容

合意の内容は、次のとおりです。

第一に、協議離婚に合意し、相手方は離婚届の作成その他必要な一切の協力をすることとしました。第二に、解決金300万円に、別居から離婚合意成立日までの婚姻費用86万4967円(2か月分と17日分の日割り)を加えた合計386万4967円を支払うこととしました。相手方の当初提示額は100万円でしたので、その約3.9倍にあたります。当方が請求した解決金300万円および婚姻費用の額は、いずれも1円も減額されていません。第三に、財産分与は相互に請求しないことを確認し、ご相談者名義の資産が持ち出される事態も回避しました。第四に、年金分割について、按分割合を上限である0.5と定めました。

支払方法は、100万円を当事務所の預り金口座へ一括して支払い、残額を約2年半にわたり毎月分割して支払うという内容です。長期の分割払いとなり、しかも相手方には過去に債務整理の経歴があったことから、単なる合意書にとどめることはせず、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成することを合意の必須条件としました。

公正証書には、①分割金の不払いが一定額に達したときは当然に期限の利益を喪失し残額を直ちに支払うこと、②年3%の遅延損害金、③振込手数料をすべて相手方の負担とすること、④相手方は勤務先・住所・連絡先の変更を速やかに通知すること、⑤金銭債務の履行を遅滞したときは直ちに強制執行に服する旨の陳述を盛り込み、不払いのリスクに備えました。

手続の経過としては、家庭裁判所の調停・審判を一切経ることなく、書面のやり取りのみで解決に至っています。受任から離婚成立まで約4か月半、公正証書の作成を含む全手続の完了まで約7か月でした。ご相談者は交渉中に再就職されましたが、婚姻費用は無収入を前提とした算定額のまま維持されています。

良い解決を実現できたポイント

① 立証が難しい不貞ではなく、確実に存在する婚姻費用を主戦場に据えたこと。本件で最も重要な判断です。異性関係を疑わせる資料はありましたが、それを主戦場にすれば長期化は避けられませんでした。他方、高額の収入を得ている相手方にとって、月額33万7000円の婚姻費用は、交渉が長引くほど負担が積み上がる構造です。「時間が経つほど相手方が損をする」状況をつくり、それを交渉のてこにしたことで、結果的に慰謝料に相当する額を確保することができました。決定的な証拠がなくても、諦める必要はありません。

② 金額を明示した書面を早期に送付し、婚姻費用の始期を確保したこと。婚姻費用の請求は、いつの時点から認められるかによって総額が大きく変わります。受任後速やかに具体的な金額を明示して請求したことで、別居直後の月からの請求権を確保しました。

③ 相手方の減額主張を、実務の到達点を示して正面から退けたこと。「9年平均年収を基礎とすべき」「既払金は婚姻費用の前払いである」という二つの主張に対し、実務・裁判例の状況と制度の趣旨に立ち返って具体的に反論した結果、相手方はこれらの点について再反論を行わず、実質的に議論を放棄して解決金の増額に応じました。婚姻費用は1円も減額されていません。

④ 明確な回答期限と調停申立ての予告により、相手方の経済合理性に直接訴えたこと。単に「応じなければ調停を申し立てる」と述べるのではなく、調停に移行した場合に相手方が負担し続ける金額を具体的に示し、早期解決が相手方にとっても合理的であることを説明しました。相手方が回答期限の当日に全面受諾したのは、この点を踏まえた判断であったと考えられます。

⑤ 「取り決める」だけでなく「回収する」ところまで設計したこと。約2年半にわたる分割払いは、途中で支払が滞るリスクを常に伴います。強制執行認諾文言付き公正証書の作成、期限の利益喪失条項、遅延損害金、振込手数料の相手方負担、勤務先・住所の変更通知義務まで定めることで、将来の不払いに備えました。あわせて年金分割0.5を確保し、老後の生活にも配慮しています。

⑥ ご相談者が相手方と直接やり取りをする必要が一度もなかったこと。受任通知によりご本人・ご親族への接触を止めたうえ、条件交渉、離婚届のやり取り、公正証書の作成、残置物の処理に至るまで、すべて代理人が対応しました。相手方から連絡を取りたいとの申し出があった際も、代理人を通じてご相談者のご意向をお伝えし、接触を遮断したまま手続を完了しています。

配偶者の収入や借金について虚偽の説明を受けていた方、生活費を十分に渡してもらえずお困りの方、別居中の婚姻費用の請求や離婚条件の交渉をお考えの方、取り決めた養育費や解決金の不払いが心配な方は、渋谷に所在する馬場綜合法律事務所までお気軽にご相談ください。

別居・婚姻費用については下記のページに詳しくまとめています。合わせて読んでみてください。

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