弁護士コラム

渋谷の法律事務所の解決事例:探偵の調査報告書をもとに不貞を疑われ慰謝料800万円を請求された事案において、第一審で請求全部棄却の判決を得たうえ、控訴審における解決金50万円(連帯債務)の和解により終結した事例

相談事例
目次

ご相談の概要

ご相談者は男性で、勤務先で管理職の立場にある方です。職場の部下である女性との関係を不貞と疑われ、その配偶者(以下「相手方」といいます。)から慰謝料を請求されているとしてご相談にいらっしゃいました。

ご相談者によれば、部下の女性は夫婦関係の悪化から自宅を出て別居しており、ご相談者は上司として、また相談を受けた立場から、その生活状況を気にかけて訪問を重ねていたとのことでした。ところが相手方は探偵会社に行動調査を依頼し、約40日間で十数回に及ぶ訪問、早朝の立ち寄り、数時間にわたる滞在、休日の外出といった事実を記録した調査報告書を取得していました。あわせて、ご相談者と部下との間でやり取りされた、親密な表現を含むメッセージも把握されていました。

相手方はご相談者に直接面談を求め、調査報告書を示したうえで、慰謝料800万円の支払と合意書への署名を要求しました。

ご相談者のご要望は、①身に覚えのない不貞行為を認めることはできないこと、②勤務先や取引先に本件が伝わる事態を何としても避けたいこと、③相手方からの直接の連絡・接触を止めること、というものでした。

解決の方針と交渉の経緯

当事務所の弁護士がご相談者の代理人に就任し、受任後直ちに相手方へ受任通知を送付しました。この受任通知では、以後の連絡窓口を当職に一本化することに加えて、ご本人・ご親族はもとより、勤務先およびその取引先・関係者に対して直接連絡・接触することを控えるよう明確に求め、その態様によっては名誉毀損罪に該当し得ることを具体的に指摘しました。管理職として社会的信用を有するご相談者にとって最大のリスクであった職場への波及を、交渉の初期段階で遮断したものです。

交渉段階では、こちらから金額の交渉に踏み込むことは一切せず、「不貞行為の事実を基礎づける日時・場所・具体的な言動を特定したうえで、その根拠となる証拠を開示されたい。開示された内容を踏まえて検討する」との回答を繰り返しました。請求する側に主張・立証の具体化を求め続けた結果、相手方の請求額は当初の800万円から500万円へと引き下げられました。

その後、相手方が慰謝料500万円及び弁護士費用相当額50万円の合計550万円の支払を求めて訴訟を提起したため、訴訟でも全面的に争いました。訴訟における当方の主張構成は、次のとおりです。

第一に、調査報告書に記載された訪問日時や滞在時間といった外形的事実については、そのほとんどを「概ね認める」としました。事実そのものを争わないことで供述の一貫性と具体性を担保し、争点を「その外形的事実から不貞行為を推認できるか」の一点に絞る狙いです。

第二に、各訪問について、その理由を1件ごとに日付順で具体的に説明しました。部下の女性が別居直後に所持金が乏しく、住まいを確保するまでの間は勤務先の一室で寝泊まりせざるを得ない状況にあったこと、別居後に親族との間で暴力を伴うトラブルが生じて警察が臨場する事態となり、その後は自傷や自死を考えるほど深刻な精神状態に陥っていたこと、といった背景事情を丁寧に立証し、安否確認や相談対応、食事の提供といった訪問の合理的理由を裏づけました。

第三に、親密な表現を含むメッセージについては、問題とされた部分を1通ずつ分解したうえで、その前後のやり取り全体を証拠として提出し、飲酒を伴う場面での掛け合いの流れの中での発言であって性的関係を示唆するものではないことを、文脈に即して反論しました。

第四に、そもそも不貞行為の立証責任は請求する側にあり、外形的事実を積み重ねてそこから不貞を推認することには論理の飛躍があること、また、こちらがメッセージ履歴の全部を提出しないことを理由として不貞を推認することは立証責任の転換にほかならず許されないことを、一貫して主張しました。

なお、審理の途中では、裁判所の関与のもとで和解協議も行われ、当方はご相談者の承諾を得たうえで一定額の解決金を支払う和解案を提示しましたが、相手方が「金額の問題ではなく、不貞を認めなければ和解しない」との姿勢を崩さなかったため、和解には至らず、本人尋問を経て判決に至りました。

解決の内容

第一審の裁判所は、「一定程度親しい関係にあったことを推認し得るにとどまり、それを超えて不貞関係にあったことの立証があったとはいえない」と判断し、相手方の請求をいずれも棄却しました。ご相談者の全面勝訴です。また、各訪問の理由に関する当方の説明についても、「あながち不自然、不合理なものとまでいうことはできない」との評価を得ています。

相手方が控訴したため、控訴審でも、原判決の認定過程の正当性、控訴審で新たに提出された証拠の客観性の欠如、控訴審に至って初めて主張された事情が時機に後れた攻撃防御方法に当たること、不貞行為の立証責任は請求する側にあることなどを、論点ごとに整理して反論しました。

控訴審は、当方の答弁書提出後まもなく弁論を終結し、判決言渡期日を指定したうえで和解協議に入りました。すなわち当方は、勝訴判決を維持できる見込みのある立場から和解協議に臨むことができました。

最終的に、解決金50万円(ご相談者ともう一方の当事者の連帯債務とし、内部的な負担割合は各25万円)を支払い、相手方はその余の請求を放棄する内容で和解が成立しました。和解条項には清算条項が置かれ、本件に関して当事者間に他に何らの債権債務がないことが相互に確認されています。

重要な点として、和解条項には不貞行為を認める文言も謝罪文言も一切含まれておらず、支払の名目も「慰謝料」ではなく「解決金」とされました。当初請求800万円、訴訟における請求550万円に対し、ご相談者の実質的な負担は25万円にとどまっています。

良い解決を実現できたポイント

① 受任通知の段階で勤務先・取引先への接触を遮断したこと。この種の事案では、請求する側が勤務先への連絡をほのめかして支払を迫ることが少なくありません。本件では、受任通知において勤務先・取引先・関係者への接触を明確に禁じ、その態様によっては名誉毀損罪に該当し得ることまで指摘したことで、ご相談者が最も懸念されていた職場への波及を最後まで防ぐことができました。

② 交渉段階で金額の話に応じず、証拠の開示を求め続けたこと。早期に金額の交渉を始めてしまうと、不貞の存在を前提とした話し合いに引き込まれてしまいます。本件では、あくまで「事実を特定し証拠を開示されたい」との対応を貫き、請求する側に立証の具体化を強いました。その結果、訴訟に至る前の段階で請求額が800万円から500万円へと下がっています。

③ 外形的事実を争わず、争点を「推認の可否」に一点集中させたこと。調査報告書に記載された訪問日時や滞在時間を細かく争えば、かえって供述の信用性を損なうおそれがありました。本件では外形的事実をほぼ認めたうえで、「その事実から不貞を推認できるか」という一点に争点を絞ることで、主張全体の説得力を高めました。

④ 訪問の合理的な理由を1件ずつ具体的に立証したこと。「なぜそこまで関与したのか」という裁判所の疑問に正面から答えるため、経済的困窮、暴力を伴うトラブル、自傷のおそれのある精神状態といった背景事情を丁寧に積み上げ、各訪問の理由を日付順に説明しました。この地道な作業が、供述の信用性を裁判所に認めさせる決め手となりました。

⑤ 判決を得たうえで、控訴審の和解により紛争を確定的に終結させたこと。第一審で請求全部棄却の判決を得た後、控訴審判決・上告と手続が続けば、解決までにさらに長い時間と負担を要します。本件では、判決言渡期日が指定され勝訴判決を維持できる見込みのある立場から、清算条項付きの和解によって紛争そのものを完全に終わらせるという実利的な出口を選択し、ご相談者の負担を最小化しました。

不貞を疑われて慰謝料を請求されてお困りの方、探偵の調査報告書を示されて示談書への署名を迫られている方、勤務先や取引先への連絡を示唆されてお悩みの方は、渋谷に所在する馬場綜合法律事務所までお気軽にご相談ください。

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