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ご相談者は20代の女性で、交際していた男性が既婚者であったことに関して、その配偶者(以下「相手方」といいます。)の代理人弁護士から慰謝料を請求されているとしてご相談にいらっしゃいました。
ご相談者によれば、お相手の男性は、ご相談者の勤務先に親会社から出向してきた社員であり、社内の部活動を通じて知り合い、共通の趣味をきっかけに交際に至ったとのことでした。交際期間は約10か月です。
相手方の代理人弁護士からご相談者本人宛に届いた通知書には、民法709条に基づき慰謝料200万円を請求する旨、書面を受け取ってから7日以内に送金しない場合や回答がない場合には裁判手続に移行する旨が記載されていました。ご相談者は他の法律事務所にも相談されており、そこでは「裁判になる可能性が高い」との見立てを示されたとのことで、強い不安を抱えておられました。
また、本件には、金額とは別に、ご相談者にとって極めて重要なご事情がありました。ご相談者は、今後お相手の男性と不貞行為に及ぶことはしないとお約束されるお気持ちでした。しかし他方で、お相手の男性に対する気持ちの整理がつかず、今後も友人としての関係は続けたいというご意向をお持ちでした。加えて、お相手の男性はご相談者の勤務先に出向してきた社員であり、同じ職場で日常的に顔を合わせる関係でもありました。
この種の示談では、不貞相手との接触そのものを禁じる条項(接触禁止条項)が置かれることが少なくありません。しかし、そのような条項が入れば、ご相談者は、お相手の男性と友人として関わることも、職場で必要な範囲で言葉を交わすこともできなくなってしまいます。示談の内容次第で、ご相談者の今後の人間関係と就労の双方に支障が生じかねない状況にありました。
ご相談者のご要望は、①支払額を適正な範囲に抑えること、②裁判を避けること、③お相手の男性との接触を禁じる条項を入れられないこと、④相手方から直接連絡を受ける状態を止めること、というものでした。
当事務所の弁護士がご相談者の代理人に就任し、委任契約を締結したその日のうちに相手方代理人へ受任通知を送付して、以後の連絡窓口を当職に一本化し、ご相談者本人への直接の連絡・接触を止めました。相手方は「7日以内に支払わなければ裁判にする」という強い内容の書面をご本人に直接送りつけていましたので、この初動によって、まずご相談者を心理的な圧迫から切り離すことを優先しました。
交渉の方針としては、不貞の事実そのものは認め、相手方に対して明確に謝意を示したうえで、争点を「金額の相当性」の一点に絞る構成を採りました。事実関係を争えば感情的な対立が拡大し、かえって解決が遠のくためです。
そのうえで、減額の事情を次のとおり整理して主張しました。第一に、相手方ご夫婦の婚姻期間が短く、不貞が始まった時点では婚姻から約1年しか経過していなかったこと。第二に、ご夫婦にお子様がいらっしゃらないこと。第三に、別居や離婚に至っておらず、婚姻関係の破綻という結果が生じていないこと。第四に、交際期間中の行為の頻度・回数が限定的であったこと。これらの事情に照らせば、裁判実務における同種事案の認定水準は請求額を相当程度下回るところにあり、訴訟に移行しても同じ水準に収まる蓋然性が高いことを、具体的に示しました。これにより、相手方の「裁判に移行する」という予告を、実質的に無力化しています。
さらに当方は、ご相談者が不貞相手の男性に対して有する求償権を放棄することを対価として明示し、その分の減額を求めました。共同不法行為者の一方が慰謝料を支払った場合、他方に対して負担部分の求償ができるのが原則ですが、これを放棄すれば、相手方はご相談者から受け取った金銭が配偶者を通じて実質的に戻っていくことを防げます。相手方にとって実利のあるカードであり、実際、相手方もこの点を減額の検討要素として明示しました。
交渉の途中、相手方から「請求後もご相談者が男性と連絡を取り合っており、誠意や反省が窺えない。裁判になれば増額事由となる」との指摘とともに、100万円の逆提示がなされました。しかし当方は、裁判実務の相場と求償権放棄という枠組みを崩さず、当初の提案の水準を維持しました。その結果、相手方から、当方が示していた相場の下限にあたる水準の合意書案が提示されるに至りました。
そして条項面では、接触禁止条項および誓約条項を設けさせないことを、交渉の柱の一つに据えました。ご相談者は、今後不貞行為には及ばないとお約束される一方で、お相手の男性との友人としての関係は続けたいというご意向をお持ちでしたし、同じ職場で顔を合わせる関係でもあったからです。相手方が接触の継続を理由に増額を求めてきた局面でも、当方はこの点について譲らず、最終的に、これらの条項を一切含まない合意書での解決を実現しました。他方で、口外禁止条項については、これを一方的な義務ではなく双方向の義務とすることを求め、ご相談者側の情報が職場やインターネット上に拡散するリスクも封じました。
最終盤では、相手方案のうち支払期限のみを実際の資金準備に必要な期間に合わせて修正することを求め、その他の点については異論がない旨を回答して、実質的な論点を蒸し返すことなく、最短で合意の成立を確定させました。
交渉の結果、ご相談者が相手方に対し、慰謝料80万円を一括して支払う内容で合意が成立しました。当初請求額200万円からの120万円の減額、率にして60%の減額です。
合意書には、①慰謝料80万円を指定期日限り一括で振込送金すること、②ご相談者は本件について不貞相手の男性に求償しないこと、③双方が、インターネットへの書き込み、書面への掲載、口頭での流布、架電、電子メールその他方法のいかんを問わず、本件に関する情報を第三者に公開しないこと(相互の口外禁止条項)、④本合意書に定めるほか何らの債権債務がないことを相互に確認し、今後名義のいかんを問わず互いに金銭その他一切の請求をしないこと(清算条項)を定めました。
他方、ご相談者が最も気にされていた、お相手の男性との接触を禁じる条項および誓約条項は、一切設けられていません。今後不貞行為に及ばないことはご相談者ご自身がお約束されるところですが、友人としての関係を続けること、また同じ職場で必要な範囲で関わることは、合意書によって何ら制約されない内容となりました。分割払いや遅延損害金、期限の利益喪失といった条項もなく、一括払い一回で法的関係が終了する内容です。
訴訟に移行することなく、受任から約2か月半で解決しました。解決金は当事務所の預り金口座を経由して送金し、ご相談者が相手方と直接やり取りをすることは最後までありませんでした。
【良い解決を実現できたポイント】
① 受任したその日に受任通知を送付し、直接の連絡を遮断したこと。相手方は「7日以内に支払わなければ裁判にする」という書面をご本人に直接送っており、ご相談者は期限に追われる強い心理的圧迫の中にありました。委任契約の当日に受任通知を送ることで、この状態を直ちに止め、落ち着いて方針を検討できる状況をつくりました。
② 認めるべきところは認め、争点を金額に一本化したこと。不貞の事実を争えば、相手方の感情を刺激し、証拠の応酬によって解決が長期化します。事実を認めて謝意を示したうえで「金額が相当か」という一点に絞ったことが、短期間での解決につながりました。
③ 裁判実務の相場を客観的に示し、「裁判にする」という予告を無力化したこと。婚姻期間の短さ、お子様がいらっしゃらないこと、別居・離婚に至っていないこと、行為の頻度が限定的であることといった減額事情を整理し、訴訟になっても認定額は請求額を相当程度下回る見込みであることを具体的に示しました。相手方にとって、訴訟を提起する経済的合理性が乏しいことを理解させたことが決め手となりました。
④ 求償権の放棄を交渉のカードとして使い切ったこと。求償権を放棄することは、相手方にとって実質的な利益があります。これを単に譲るのではなく、減額の対価として明確に位置づけて提示したことで、金額の交渉に具体的な材料を持ち込むことができました。
⑤ ご相談者のご意向に沿って、接触禁止条項を入れない形で合意できたこと。本件で最も価値が大きかったのは、金額の減額よりもむしろこの点であったかもしれません。ご相談者は、今後不貞行為には及ばないとお約束される一方で、お相手の男性との友人としての関係は続けたいというご意向をお持ちでした。同じ職場で顔を合わせる関係でもありました。相手方から接触の継続を理由に増額を求められた局面でも方針を崩さず、接触禁止条項および誓約条項を一切含まない合意を実現できたことは、ご相談者のご意向をそのまま形にした結果です。あわせて口外禁止を双方向の義務としたことで、ご相談者の社会的評価も守られています。示談は「いくら払うか」だけの問題ではなく、「どのような条項が入るか」によって、その後の生活が大きく変わります。ご自身が譲れない点はどこかを弁護士に率直にお伝えいただくことが、納得のいく解決につながります。
なお、本件は当事務所が受任した事案における結果であり、慰謝料の減額幅は個々の事情によって大きく異なります。もっとも、相手方から届いた通知書の金額が、そのまま裁判所で認められる金額であるとは限りません。示談書に署名してしまうと、後から金額を争うことは極めて困難になります。
交際相手の配偶者から慰謝料を請求されてお困りの方、「期限までに支払わなければ裁判にする」と通告を受けてお悩みの方、示談書への署名を求められている方は、署名される前に、渋谷に所在する馬場綜合法律事務所までお気軽にご相談ください。

不倫・不貞慰謝料請求をされている方向けに、弁護士に相談するメリット、他の事例、Q&Aなどまとめております。合わせて読んでみてください。


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