離婚コラム

面会交流を拒否したい場合はどうすべきか?

はじめに

渋谷駅付近で馬場綜合法律事務所を運営している弁護士の馬場洋尚と申します。このコラムでは、離婚後や別居中に、相手方(非監護親)から求められた子どもとの面会交流を拒否したいと考えた場合に、監護親としてどのような対応を取るべきかについて、法的な手続きや裁判例を交えながら詳しく解説します。

裁判手続を介さずに面会交流を拒むことは望ましくないこと

相手方から面会交流の申し出があった際に、裁判手続などを介さずに一方的に拒絶することは、以下の理由から望ましくありません。

第一に、子どもが非監護親と会うことを拒否していることだけを理由に、当然に面会交流を拒否できるわけではありません。家庭裁判所が作成した「面会交流のしおり」によれば、子どもが拒否した場合は、まず監護親がその理由をよく聞き、非監護親と冷静に話し合うべきだとされています。一方的に拒絶する対応は、新たな争いを生む原因となりかねません。

第二に、面会交流の実施について調停や審判といった法的手続きになった場合、監護親が特段の理由なく「完全拒否」の態度を貫くと、不利な結果を招く可能性があります。審判では、監護親側から具体的な代替案や条件の提示がない場合、「申立人(非監護親)が提案する条件・要領を基本として定める」といった判断や、裁判官の裁量で面会交流の内容が決められてしまうおそれがあります。したがって、面会交流を制限すべき具体的な理由を主張するとともに、もし実施するならばどのような条件であれば可能かという対案を準備しておくことが重要です。

第三に、調停などで面会交流の条件について「誠実に協議する」と定められたにもかかわらず、社会通念に照らして実質的に協議を拒否したと評価されるような行為をした場合、相手方の面会交流権を侵害するものとして、不法行為責任(損害賠償責任)を問われる可能性も指摘されています。

面会交流を禁止・制限するための調停又は審判の手続

面会交流を拒否したい、あるいは制限したいと考える正当な理由がある場合には、感情的に拒絶するのではなく、家庭裁判所における法的な手続きを踏むことが適切です。

手続きの流れは以下のようになります。

⑴ 当事者間での話し合い

まずは、当事者間で面会交流の条件変更や停止について話し合います。

⑵ 面会交流調停の申立て

話し合いで合意に至らない場合は、家庭裁判所に「面会交流調停」を申し立てます。これは、面会交流の実施を求める側だけでなく、条件の変更や停止、取消しを求める側からも申し立てることができます。調停では、調停委員を介して、面会交流の在り方について話し合いが進められます。

⑶ 審判手続への移行

調停でも話し合いがまとまらず不成立となった場合は、自動的に審判手続に移行します。審判では、裁判官が双方の主張や家庭裁判所調査官による調査結果などを踏まえ、面会交流の可否や具体的な方法について判断(審判)を下します。

⑷ 面会交流の停止や取消しが検討されるケース

面会交流の停止や取消しが検討されるケースとしては、以下のような事情がある場合が挙げられます。

① 別れた親が子どもに対し、教育上好ましくないことを吹き込んでいる。
② 面会交流のルールが守られず、子どもを監護親のもとへ返さない。
③ 監護親が再婚し、子どもも再婚相手を実の親のように慕って生活しており、別れた親と会うことがかえって子どもの精神的な負担になると判断される場合。

これらの手続きを通じて、面会交流が子の福祉を害する事情があることを具体的に主張し、裁判所に認めてもらうことが重要となります。

面会交流を拒否することの可否が問題となった裁判例

以下では、実際に面会交流を拒否することの是非が争われた裁判例を5つご紹介します。

⑴ 子の精神的安定への悪影響を理由に面会交流を認めなかった事例(東京高決平成2年2月19日)

【事案の概要】
婚姻関係が破綻し別居中の夫婦の間で、非監護親である父が、当時3歳の子どもとの面会交流を求めました。これに対し、監護親である母は、別居後、子どもがようやく精神的に安定してきたところであり、父との面会は子どもをいたずらに動揺させることになり、子の福祉を害するとして面会交流を拒否しました。

【裁判所の判断】
高等裁判所は、まず「子が父親(相手方)についての認識を欠いている現状を改善したいとの相手方の心情は理解しうる」と、父の気持ちに一定の理解を示しました。しかし、その上で、本件における面会交流の実施は「子の精神的安定に多大の悪影響を及ぼすものとみるべきであり,子の福祉を損なうおそれが強い」と判断しました。

そして、結論として、「現時点での面接は,子の福祉をはかるために,これを許さないことを相当とする余地があり,また,仮に面接を許すとしても,子の福祉を極力損うことがないようにするため家庭裁判所調査官等を関与させる等の配慮が必要である」と述べ、面会交流の申立てを認容した原審判(家庭裁判所の審判)を取り消し、事件を家庭裁判所に差し戻しました。

【ポイント】
この裁判例は、非監護親が子に会いたいと願う心情は理解できるとしつつも、面会交流の実施が子の精神的安定に重大な悪影響を及ぼす具体的なおそれがある場合には、子の福祉を最優先し、面会交流を認めない、あるいは実施するとしても調査官の関与など慎重な配慮を要するという判断を示すものです。面会交流が子の福祉を害する場合には制限されうることを示した重要な事例といえます。

⑵ 面会交流後の子の情緒不安定を理由に申立てを却下した事例(岐阜家大垣支審平成8年3月18日)

【事案の概要】
協議離婚の際に、父と子の面会交流について合意がなされていました。しかし、実際に面会交流を行った後、子どもが情緒不安定になるなどの状況が見られたため、監護親である母が面会交流を拒否するようになりました。これに対し、非監護親である父が、合意に基づく面会交流の実施を求めて申立てを行いました。

【裁判所の判断】
家庭裁判所は、子どもが当時3歳と幼く、これまで母親である母から一時も離れずに育ってきたことを指摘しました。その上で、「相手方(母)の手から離れ、異なった環境の中で、申立人(父)と時間を過ごすということは事件本人〔子〕に少なからぬ不安感を与えるものである」と推察しました。

さらに、現実に子どもが父との面会後に情緒不安定な兆候を見せているという事実を重く見て、「現段階での,申立人との面接交渉を認めることには躊躇せざるを得ない」と判断しました。

そして、面会交流に代わる方法として、「今は,相手方(母)がこまめに事件本人〔子〕をビデオや写真に撮り,これを申立人(父)に送付する等して,申立人に事件本人〔子〕の近況を知らせる程度に留めるのが相当である」として、父からの面会交流の申立てを却下しました。

【ポイント】
この裁判例は、面会交流の合意があったとしても、その後の事情の変化、特に面会交流の実施が子どもの情緒に悪影響を与えているという具体的な事実がある場合には、子の福祉の観点から面会交流が制限されることを示しています。直接的な面会交流が困難な場合に、写真やビデオの送付といった間接的な交流の方法を裁判所が提案している点も特徴的です。子の年齢や発達段階、そして面会後の具体的な様子が、判断の重要な要素となった事例です。

⑶ 非監護親の言動により子が拒否反応を示した事例(浦和家審昭和56年9月16日)

【事案の概要】
離婚調停において、父と子どもたちの面会交流に関するルールが定められました。その際、父がルールに違反した場合には、母から面会を拒否されても異議を述べないという条項も盛り込まれていました。その後、面会交流の折衝過程における父の言動などが原因で、子どもたちが父に対して不安感や恐怖感を抱き、面会交流に強い拒否反応を示すようになりました。そこで父が面会交流を求めて申立てを行いました。

【裁判所の判断】
家庭裁判所は、まず面会交流権の基本的な考え方について、「面接交渉をうける未成年者の健全な育成をはかり,その情操を高めるという目的が達成されるように行使されなければならない」と述べました。その上で、両親はそのような状況を作る努力義務があるとしつつも、「そのような努力をしても,なお,非親権者との面接が未成年者の情操を害ねると認められる事情が生じたとき」には、親権者はその事情が続く間、面会を延期または停止することが子の福祉に合致すると判断しました。

本件については、子どもたちが父の言動により強い拒否反応を示している状況は、まさに「面接が未成年者の情操を害ねると認められる事情」にあたるとし、そのような事情が存続する間、父は面会を求めることはできないとして、父の申立てを却下しました。

【ポイント】
この裁判例は、たとえ調停で面会交流が取り決められていたとしても、その後の非監護親の言動が原因で、子ども自身が強い拒否の意思を示し、面会が子の精神的な健全性を害すると認められる状況になった場合には、面会交流が停止されうることを明確に示したものです。面会交流は親の権利である以前に、「子の福祉」のためのものであるという原則を強調した判断といえます。非監護親自身の行動が、自らの権利行使を妨げる結果につながることを示唆しています。

⑷ 非監護親の不信行為により直接の面会を否定した事例(東京高決平成19年8月22日)

【事案の概要】
非監護親である父が、別居している監護親(母)と子の居場所を突き止める目的で、子の誕生日プレゼントと称して、中に位置情報確認装置(GPS)を潜ませたラジコン入りの小包を送付しました。この行為により、子と監護親は非監護親に対して強い不信感を抱くようになりました。このような状況で、非監護親が子との面会交流を求めました。

【裁判所の判断】
高等裁判所は、非監護親が子の居場所を探るためにGPS付きのプレゼントを送ったという不適切な行為を問題視しました。この行為によって、監護親と子どもの双方が非監護親に対して不信感を抱いているという事実を重く受け止めました。その結果、このような信頼関係が損なわれた状況で直接の面会交流を実施することは、子の福祉にかなうものではないと判断し、直接の面会交流の実施を否定しました。

この判断は、別の裁判例(浦和家審昭56・9・16)と考え方を同じくするものとしても引用されています。

【ポイント】
この裁判例は、面会交流の前提となるべき親子間の信頼関係を、非監護親自らが破壊するような行為(子の連れ去りを示唆するような行為やプライバシーを侵害する行為など)があった場合に、面会交流が厳しく制限されることを示すものです。子の連れ去りのおそれがある場合は、面会交流を禁止・制限すべき事由にあたりますが、この事例のように、連れ去りに向けた具体的な行為があった場合には、面会交流が否定される可能性が高まります。非監護親には、面会交流の権利を主張する以前に、子や監護親の信頼を損なわない誠実な態度が求められることを示唆しています。

⑸ 面会交流による心理的・医学的弊害が明らかになった事例(名古屋高決平成29年3月17日)

【事案の概要】
非監護親である父と子との面会交流を命じる審判(前件審判)が既に出ていました。しかし、監護親である母は、その後の面会交流の実施によって、子に心理的・医学的な弊害が明らかになったとして、面会交流を禁止することを求めて新たに申立てを行いました。原審(家庭裁判所)は、面会交流の禁止までは認めず、方法の一部を変更するに留めたため、父母双方が高等裁判所に抗告しました。

【裁判所の判断】
高等裁判所は、具体的な事実関係を検討した結果、少なくとも一度実施された面会交流において、「A(未成年者)とY(父)との面会交流をこれ以上実施させることの心理学的、医学的弊害が明らかとなったものと認められ、それが子の福祉に反することが明白になった」と認定しました。その上で、それ以降は「直接的面会交流をさせるべきでないことが明らかとなった」と判断し、直接会う形での面会交流は禁止すべきとの結論に至りました。

ただし、高等裁判所は、直接会うことは子の福祉に反するとしても、「Y(父)が父親としてA(子)のために手紙や品物を送ることまでを否定する理由はない」と述べ、手紙やプレゼントの送付といった間接的な交流については、これまでの取り扱いを変更する必要はないとしました。

【ポイント】
この裁判例は、一度審判で面会交流が認められた後でも、その後の事情の変化、特に面会交流の実施が子の心身に悪影響を及ぼすことが専門的な知見(心理学的・医学的見地)から明らかになった場合には、子の福祉を最優先して、直接的な面会交流が禁止されうることを示した重要な事例です。面会交流の可否は一度決まったら終わりではなく、子の状況に応じて見直されるべきものであることを示しています。また、直接会うことが困難な場合でも、手紙などの間接的な交流は維持される可能性があるという、柔軟な判断のあり方を示している点も参考になります。

まとめ

本コラムでは、面会交流を拒否したいと考えた場合の対応について解説しました。重要なポイントは以下の通りです。

【一方的な拒否は避けるべき】:子どもが会いたがらないことだけを理由に、あるいは感情的に面会交流を一方的に拒否することは、新たな紛争を生んだり、法的手続きにおいて不利な結果を招いたりするリスクがあります。

【法的手続きを利用する】:面会交流が子の福祉を害すると考える正当な理由がある場合は、当事者間の話し合いから始め、合意できない場合は家庭裁判所の調停・審判といった正式な手続きを利用して、面会交流の停止や制限を求めるべきです。

【「子の福祉」が最優先の判断基準】:裁判所が面会交流の可否を判断する上で最も重視するのは、「その面会交流が子の健全な成長や精神的な安定に資するかどうか(子の福祉)」です。したがって、面会交流を拒否したい側は、なぜそれが子の福祉に反するのかを、子の言動、専門家の意見、具体的なエピソードなどを用いて客観的かつ具体的に主張・立証することが不可欠です。

面会交流に関する問題は、当事者間の感情的な対立が激しくなりがちで、お子様にとっても大きな負担となります。どのように対応すればよいか、ご自身のケースではどのような主張が可能なのか、お悩みの方は、渋谷駅付近の馬場綜合法律事務所にお気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

馬場 洋尚
(ばば ひろなお)

東京都出身。
令和元年12月、渋谷駅付近で馬場綜合法律事務所を開設。
法的問題の最良の解決を理念とし、離婚、相続、遺言、一般民事、企業法務など幅広く手がけています。その中でも離婚・男女問題には特に注力して活動しています。ご依頼者の方と密接なコミュニケーションを取りつつ、ひとつ一つのご案件に丁寧に接することを心掛けています。

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