離婚コラム

【渋谷の弁護士が解説】不倫などをした有責配偶者からの離婚請求は認められない?

はじめに

渋谷駅付近で馬場綜合法律事務所を運営している弁護士の馬場洋尚と申します。離婚原因には、不貞行為や悪意の遺棄などがありますが、自ら不倫などの離婚原因を作った配偶者(有責配偶者)からの離婚請求は、法律上どのように扱われるのでしょうか。このコラムでは、この点について詳しく解説します。

相手方の同意を得ずに離婚を実現する方法―離婚判決の獲得

相手方の同意を得ずに離婚をするには、当事者間の話し合いによる協議離婚ができない場合、裁判での判決によって離婚を認めてもらう必要があります。裁判で離婚が認められるためには、法律で定められた離婚原因が存在することが必要です(民法770条1項)。以下の5つの離婚原因のいずれかが存在すると認めた場合に、判決によって離婚を成立させることができます。

① 配偶者に不貞な行為があったとき
② 配偶者から悪意で遺棄されたとき
③ 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
④ 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき

このうち、1号から4号は具体的な離婚原因、5号は夫婦関係が破綻してこれ以上婚姻生活を続けることが難しいと考えられる場合に離婚を認めるための抽象的な離婚原因とされています。ただし、裁判所は1号から4号の事由がある場合でも、一切の事情を考慮して婚姻の継続が相当と判断したときには、離婚請求を棄却することができます(民法770条2項)。

有責配偶者とは?

有責配偶者とは、不倫(不貞行為)や正当な理由のない一方的な別居など、自らの行為によって婚姻関係を破綻させる原因を作った配偶者のことを指します。実務上、有責性が問題となるケースのほとんどは不貞行為です。

有責配偶者からの離婚請求は原則として認められない

自ら離婚の原因を作った有責配偶者からの離婚請求は、原則として認められません。これは、婚姻の継続を望む相手方配偶者にさらなる苦痛を与えたり、生活上の困難を強いたりすることを避けるためです。

かつて最高裁判所は、いわゆる「踏んだり蹴ったり判決」(最判昭和27年2月19日・民集6巻2号110頁)に代表されるように、有責配偶者からの離婚請求を認めないという法理を確立していました。これにより、有責配偶者が離婚を望んでも、相手方が同意しない限り、裁判で離婚することはできませんでした。

有責配偶者からの離婚請求であっても例外的に認められる場合

しかし、その後、最高裁判所は判例を変更し、婚姻関係が実質的に破綻している実態を考慮して、一定の要件を満たす場合には有責配偶者からの離婚請求も例外的に認められるとの判断を示しました(最大判昭和62年9月2日・民集41巻6号1423頁)。

この最高裁判決では、有責配偶者からの離婚請求が信義誠実の原則に反しないと認められるための考慮要素として、以下の3つの要件が示されました。

① 夫婦の別居が、両当事者の年齢及び同居期間との対比において、相当の長期間に及んでいること。
② 夫婦の間に未成熟の子が存在しないこと。
③ 相手方配偶者が、離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれるなど、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められないこと。

ただし、これらの3要件は絶対的なものではなく、あくまで考慮要素とされています。例えば、未成熟の子がいる場合でも、その子の年齢や福祉の状況、離婚に伴う経済的給付などを総合的に考慮し、離婚請求を認めることが信義誠実の原則に反しないと判断されれば、離婚が認められる可能性があります。近年の裁判例では、3要件を機械的に当てはめるのではなく、離婚請求時の婚姻関係や家族関係の実態に即した判断が重視される傾向にあります。

また、最高裁昭和62年判決は、上記の3要件以外にも、有責配偶者の責任の態様・程度、相手方配偶者の婚姻継続の意思や感情、別居後に形成された生活関係(内縁関係など)、時の経過がこれらの事情に与える影響なども総合的に斟酌すべきであると判示しています。

有責配偶者からの離婚請求を認めた裁判例

⑴ 最高裁大法廷判決 昭和62年9月2日(民集41巻6号1423頁)

この判例は、有責配偶者からの離婚請求について、例外的に認める基準を初めて示した画期的な判決です。

【事案の概要】
この事件では、夫婦の別居期間が約36年という非常に長期間に及んでいました。また、夫婦の間には未成熟の子は存在しませんでした。

【裁判所の判断】
最高裁判所は、有責配偶者からの離婚請求であっても、①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間と対比して相当の長期間に及んでいること、②その間に未成熟の子が存在しないこと という2つの条件を満たす場合には、「相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情」がない限り、離婚請求を認めるべきであると判断しました。

本件では、36年という長期の別居、未成熟子がいないこと、そして相手方配偶者が離婚によって極めて苛酷な状態に置かれるといった特段の事情も認められないことから、有責配偶者からの離婚請求が認容されました。この判決は、形骸化した婚姻関係を維持させることの不合理さを考慮し、その後の実務に大きな影響を与えました。

⑵ 最高裁判所判決平成6年2月8日(判時1505号59頁、裁判集民171巻417頁)

この判決は、未成熟の子が存在する場合でも、有責配偶者からの離婚請求が認められる可能性を示した重要な事例です。

【事案の概要】
この事件の当事者間には、高校2年生の未成熟の子がいました。離婚を請求した有責配偶者(原告)は、別居後、相手方(被告)に毎月15万円を送金し続けており、離婚に伴う経済的給付として700万円を支払うとの提案もしていました。

【裁判所の判断】
最高裁判所は、「未成熟の子がいる場合であっても、ただその一事をもって右請求を排斥すべきではない」と判示しました。その上で、①未成熟の子はまもなく高校を卒業する年齢に達していること、②原告は毎月の送金実績から子の養育に無関心であったとはいえないこと、③離婚に伴う経済的給付の提案もその実現が期待できることなどの事情を総合的に考慮すれば、未成熟子の存在が離婚請求の妨げになるとはいえないと判断しました。

この判決により、未成熟子の存在は離婚を認めないための絶対的な条件ではなく、子の監護・教育・福祉の状況などを総合的に考慮して、請求が信義誠実の原則に反しない場合には離婚が認められうることが明確になりました。ただし、家裁実務では、子が中学生以下で監護を要する期間が長く残っている場合には、原則どおり離婚請求は認められない傾向にあります。

⑶ 福岡高裁那覇支部判決平成15年7月31日

この裁判例は、一度有責配偶者からの離婚請求が棄却された後に、再度提起された離婚請求が認容された事例です。

【事案の概要】
この事件では、有責配偶者からの離婚請求が一度棄却された後、再び離婚請求が申し立てられました。夫婦の別居期間は約9年間に及んでいました。有責配偶者は別居後に別の女性(A女)と同居を始め、その間に子も生まれていました。有責配偶者は、婚姻費用を支払い続け、慰謝料も支払っていました。

【裁判所の判断】
裁判所は、前訴の判決で認定された事情に、その後の新たな事情を加えて総合的に判断しました。具体的には、①別居期間が約9年と長期化し、夫婦関係の破綻の度合いが極めて深刻で形骸化していること、②有責配偶者が婚姻費用や慰謝料を支払っており、相手方配偶者が離婚によって苛酷な状態に置かれるとは認められないこと、③未成熟子との面接交渉も行われ、子の福祉が害されることもないこと、④別居後に有責配偶者が形成した内縁の妻(A女)及びその子との新たな生活関係にも配慮が必要であることなどを総合的に考慮しました。

その結果、本件の離婚請求が信義誠実の原則に照らして容認されない特段の事情は存在しないとして、有責配偶者からの再度の離婚請求を認めました。この事例は、別居期間が10年未満であっても、他の事情を考慮して離婚が認められる可能性や、一度棄却された後でも事情の変更によって結論が変わりうることを示しています。

有責配偶者からの離婚請求を認めなかった裁判例

以下では、有責配偶者からの離婚請求を認めなかった裁判例を3つ紹介します。

⑴ 東京高等裁判所判決 平成20年5月14日

有責配偶者である夫からの離婚請求を認めた第一審判決を取り消し、請求を棄却した事例です。裁判所は、夫の離婚請求を認めることは妻を精神的、社会的、経済的に極めて苛酷な状態に置き、著しく社会正義に反すると判断しました。

その理由は以下の通りです。

・妻には資産も安定した住居もなく、高齢であることに加えて病気も患っており、新たに就職することは困難であること。
・離婚が成立すれば、妻は夫からの婚姻費用分担金の給付を受けられなくなり、経済的に困窮し、病気の治療すら危ぶまれる状況になることが容易に想像できること。
・夫婦の長男は生まれつきの身体的障害があり、その成育状況に照らして妻の後見的な配慮を必要としていること。

⑵ 高松高等裁判所判決 平成22年11月26日

有責配偶者である夫からの離婚請求を認めた第一審判決を取り消し、請求を棄却した事例です。裁判所は、夫からの離婚請求は信義誠実の原則に反すると判断しました。

その理由は以下の通りです。

・夫婦の別居期間は約7年5か月であり、双方の年齢(52歳)や同居期間(約19年)に照らして、必ずしも相当の長期間とはいえないこと。
・夫婦間の子は成人しているものの、複数の障害により24時間の付添介護が必要な状態であり、未成熟子に準じるものであること。
・離婚により、妻が経済的に過酷な状況に置かれる可能性が否定できず、また、子の介護負担を一人で抱え込むことになり、精神的にも過酷な状況に置かれることが想定されること。

⑶ 福岡高等裁判所判決 平成16年8月26日

有責配偶者である夫からの離婚請求を棄却した第一審判決を支持し、控訴を棄却した事例です。裁判所は、夫による離婚請求は信義誠実の原則に照らして容認できないと判断しました。

その理由は以下の通りです。

・夫婦の別居期間は約9年余であり、同居期間(約21年)や双方の年齢等を考慮すると、相当の長期間に及ぶとまでは評価できないこと。
・夫と不貞相手との間に子はいない上、交際の実態に照らしても、その相手との新たな婚姻関係を形成させなければならない緊急の要請もないこと。
・一方、妻は夫から支払われる婚姻費用によって生活を維持している状態であり、経済的に自立できる職業に就ける見通しも乏しいこと。

まとめ

不倫などの不貞行為を働き、婚姻関係を破綻させた有責配偶者からの離婚請求は、原則として認められません。これは、相手方配偶者の意思に反して離婚を強制することが、信義誠実の原則に反すると考えられているためです。

しかし、例外的に、
① 相当長期間の別居
② 未成熟の子がいないこと
③ 相手方配偶者が離婚によって極めて苛酷な状況に置かれないこと
という3つの要件を基本的な考慮要素として、有責配偶者からの離婚請求が認められる場合があります。

近年の裁判例では、これらの要件を厳格に適用するのではなく、子の福祉や離婚後の経済的給付、別居後の生活状況など、諸般の事情を総合的に考慮して、離婚を認めることが著しく社会正義に反しないかという観点から、より柔軟に判断される傾向にあります。

したがって、ご自身が有責配偶者にあたる場合でも、あるいは相手方が有責配偶者である場合でも、離婚が認められるかどうかは個別の事情によって大きく異なります。離婚問題でお悩みの際は、渋谷駅付近の馬場綜合法律事務所にお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

馬場 洋尚
(ばば ひろなお)

東京都出身。
令和元年12月、渋谷駅付近で馬場綜合法律事務所を開設。
法的問題の最良の解決を理念とし、離婚、相続、遺言、一般民事、企業法務など幅広く手がけています。その中でも離婚・男女問題には特に注力して活動しています。ご依頼者の方と密接なコミュニケーションを取りつつ、ひとつ一つのご案件に丁寧に接することを心掛けています。

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