離婚コラム

離婚する前に準備すべき事項は?

はじめに

渋谷駅付近で馬場綜合法律事務所を運営している弁護士の馬場洋尚と申します。本コラムでは、離婚を決意された方、あるいは、離婚を考え始めた方に向けて、離婚する前に準備すべき事項について解説いたします。焦って不利な条件で合意してしまわないよう、じっくりと準備を進めることが重要です。

離婚する際に発生する主な争点

まず、離婚する際に発生する主な争点を解説します。離婚の準備は、ご自身のケースでどの点が争点になるかを把握することから始まります。夫婦関係を清算するための取り決めには、主に以下の項目が含まれます。

【離婚そのもの】
・離婚すること自体に合意できるか。
・相手方が離婚を拒否することが予想される場合には、法律上の離婚原因が具備されているか。

【未成年の子に関する事項】
・親権者・監護者の指定
・養育費
・面会交流

【金銭に関する事項】
・財産分与
・慰謝料
・年金分割

これらの項目について、離婚届を提出する前に取り決めておくことが望ましいですが、夫婦によって清算すべき事柄は様々です。ご自身の状況に応じて、どの準備が必要になるかを確認していきましょう。

離婚原因の有無が争点となる場合の準備事項

相手方が離婚に同意しない場合や、相手方の有責行為(不貞行為や暴力など)を理由に慰謝料を請求する場合には、離婚原因の存在を証明する証拠が極めて重要になります。特に、相手方が離婚に同意しないことが予想される場合には、家庭裁判所の調停や審判、最終的には離婚訴訟(裁判)によって離婚の可否が判断されることになります。裁判で離婚を認めてもらうためには、法律で定められた離婚原因(法定離婚事由)が存在することが必要です。

また、仮に、事実関係に照らせば、離婚原因として十分だと思われても、それを裏付ける客観的な資料がなければ、法的な手続きにおいて有利に進めることは困難です。そのため、以下のような証拠を事前に収集・確認しておくことが望ましいです。

⑴ 不貞行為の証拠(探偵の調査報告書、不貞相手とのLINEのやり取り、相手方が不貞を自認する旨の文書やメッセージなど)
⑵ 暴力(DV)の証拠(診断書、負傷箇所の写真、相手方の暴力を自認する旨の文書やメッセージなど)
⑶ モラルハラスメント(以下「モラハラ」といいます。)の証拠(LINEやメッセージのやり取り、モラハラを目撃した第三者の陳述書、相手方がモラハラを自認する旨の文書やメッセージなど)

これらの証拠が十分かどうか、不十分な場合には追加で収集が可能かどうかも含めて検討し、方針を決定していくことになります。

財産分与が争点となる場合の準備事項

財産分与とは、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を、離婚に際して清算することを指します。専業主婦(主夫)の貢献も考慮されるため、収入がなかった側も財産分与を請求する権利があります。また、離婚原因を作った有責配偶者からの請求も基本的に認められます。

⑴ 財産目録の作成と資料収集

まずは夫婦の共有財産をすべてリストアップした「財産目録」を作成し、財産の内容と評価額を正確に把握することが重要です。その際、各財産を証明するための客観的な資料を収集しておく必要があります。なお、財産目録の作成は、必須ではありませんが、各財産を証明するための客観的な資料の収集は、必須事項になります。主な財産と関連資料は以下の通りです。

不動産:登記事項証明書、固定資産評価証明書など
預貯金:預金通帳の原本又はコピー(全取引履歴が理想的)
株式などの有価証券:証券会社発行の取引残高報告書など
暗号資産:暗号資産の交換業者名、残高を表示する画面のスクリーンショット、相手方による暗号資産の保有を自認する旨の文書、メッセージ、録音など

相手方が財産内容を開示しない場合、調停手続きにおいて開示を求めたり、裁判所を通じて調査を依頼(調査嘱託)したりする方法があります。しかしながら、この場合でも、手掛かりとなる情報が必要な場合が多いです。例えば、預貯金の場合には、金融機関名、支店名、口座番号などの情報を把握しておくことが望ましいです。

⑵ 財産分与の基準時

財産分与の対象となる財産は、原則として「別居時」に存在した財産です。離婚時ではありません(別居が無いケースは離婚時)。これは、別居後に一方の配偶者が財産を不当に減少させることを防ぎ、公平な分与を実現するためです。したがって、少なくとも、別居時点での財産状況がわかる資料(例:別居日の預金残高がわかる通帳のコピーなど)を確保しておくことが必要です。なお、預貯金の取引履歴などは、別居時のみではなく、過去10年くらいの取引履歴を取得しておくことが望ましいです。

親権が争点となる場合の準備事項

未成年の子がいる場合、離婚後の親権者を父母のどちらか一方に定めなければ、離婚届は受理されません。親権を希望するかどうか、まずはご自身の意思を明確にすることが第一歩です。

親権について争いになった場合、家庭裁判所は子の福祉の観点から親権者を判断します。その際、これまでの監護状況が重視される傾向にあります。具体的には、以下の点を整理し、ご自身が親権者としてふさわしいことを示す準備をしておく必要があります。

これまでの監護実績(別居前の事情):別居前の時点で主たる監護をしてきた者がどちらの配偶者であるかという点が親権の判断において重視されます。

現在の監護状況(別居後の事情):別居している場合、現在、どちらの配偶者が子どもを監護養育しているか、その監護養育は子の福祉にとって適切なものであるか否かが重視されます。

これらの事情を基に、どちらが親権者となる可能性が高いかの見通しを立てておくことが重要です。

養育費・婚姻費用が争点となる場合の準備事項

養育費は、子が成人するまでの間、子を監護しない親から監護する親に対して支払われる、子の養育に必要な費用です。

⑴ 収入資料の収集

養育費や(別居中の生活費である)婚姻費用の金額は、実務上、裁判所が公表している「養育費・婚姻費用算定表」を用いて算出されるのが一般的です。この算定表は、父母双方の収入を基に計算されるため、お互いの収入を証明する資料が必要となります。まずはご自身の収入資料(源泉徴収票、課税証明書、確定申告書など)を準備しておきましょう。

⑵ 取り決めの具体化

養育費について合意する際は、後々のトラブルを防ぐため、以下の項目を具体的に定めておくことが望ましいです。なお、弁護士を選任予定の場合には、これらの取り決めは、弁護士が行うため、必須ではありません。

支払金額(月額)
支払期間(例:満20歳に達する月まで)
支払時期(例:毎月末日限り)
支払方法(例:指定の銀行口座に振り込む)

面会交流が争点となる場合の準備事項

面会交流は、子と離れて暮らす親が、子と定期的・継続的に会って交流することです。これは親の権利である以上に、「子の健全な成長のために」認められる、子のための権利であると理解することが重要です。

面会交流の取り決めをする際には、子の福祉の観点から、何が最も望ましいかを考える必要があります。具体的には、以下の点について事前に希望をまとめておくと、話し合いがスムーズに進みます。

① 面会交流の頻度(例:月1回、2か月に1回など)
② 面会交流の方法(例:宿泊の可否、面会時間、子の受け渡し方法など)

これらの内容を離婚協議書や公正証書に明記しておくことで、将来の紛争を予防できます。なお、こちらの事項についても、弁護士を選任予定の場合には、これらの調整は弁護士を介して行われるため、事前の調整はしなくても問題ありません。

離婚慰謝料が問題となる場合の準備事項

離婚慰謝料とは、相手方の有責不法な行為(不貞行為や暴力など)によって精神的苦痛を被り、離婚に至った場合に請求できる損害賠償金です。財産分与とは異なり、相手方に離婚原因を作った責任がある場合にのみ請求が認められます。

慰謝料を請求するためには、相手方の有責行為を証明する客観的な証拠が不可欠です。例えば、以下のような原因に対して、それを裏付ける証拠を収集しておく必要があります。

① 不貞行為
② 暴力(DV)

どのような証拠が有効かは事案によって異なりますが、証拠の有無が慰謝料請求の可否や金額に大きく影響するため、離婚を切り出す前や別居前に、可能な限り証拠を確保しておくことが重要です。

年金分割

年金分割とは、婚姻期間中の厚生年金や共済年金の保険料納付実績を、夫婦間で分割する制度です。離婚後に、分割を受けた側が自身の年金として受給できます。

年金分割の手続きを進めるためには、まず年金事務所から「年金分割のための情報通知書」を取得する必要があります。この通知書には、分割の対象となる期間や按分割合の範囲などが記載されており、話し合いの基礎資料となります。

年金分割について合意ができた場合、その内容を公正証書にしておくことをお勧めします。年金事務所での手続きは厳格であり、当事者双方が年金事務所に出向く必要がありますが、公正証書を作成しておけば、より確実かつスムーズに手続きを進めることができます。なお、こちらの事項についても、弁護士を選任予定の場合には、これらの調整は弁護士を介して行われるため、事前の調整はしなくても問題ありません。

その他離婚するに際して準備すべき事項

離婚に際しては、これまで述べた主要な争点のほかにも、準備・検討すべき事項がいくつかあります。

⑴ 離婚後の生活設計

特に婚姻中に相手の収入に頼って生活していた場合は、離婚後の生活設計を具体的に立てておくことが不可欠です。

住居の確保:実家に戻るのか、新たに住居を借りるのかなど。
収入源の確保:就職活動や資格取得など。
経済的な見通し:生活費、社会保険料、税金などの収支計画を立てる。

⑵ 金銭の支払いの確保

財産分与や慰謝料、養育費などの金銭の支払いについて合意した場合は、その履行を確実に確保するための準備が重要です。最も確実な方法は、離婚届の提出と引き換えに現金や振込みで一括して支払いを受けることです。不動産の分与を受ける場合は、所有権移転登記に必要な書類を同時に受け取るべきです。

分割払いとなる場合には、将来の不払いに備え、合意内容を「強制執行認諾文言付の公正証書」にしておくことを強くお勧めします。これにより、相手方が支払いを怠った場合に、裁判を経ずに強制執行の手続きをとることが可能になります。

⑶ 離婚の時期と金銭請求の時効

金銭面の折り合いがつかない場合でも、離婚届を先に提出して離婚を成立させることは可能です。しかし、金銭に関するトラブルは離婚後にこじれやすいため、できる限り離婚前に取り決めておくのが望ましいです。もし離婚を先行させた場合、各種請求には以下の期限があることに注意が必要です。

財産分与:離婚から2年以内
慰謝料:離婚から3年以内

これらの期限を過ぎると請求できなくなる可能性があるため、話し合いがまとまらない場合は、期限内に家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります。

⑷ その他の取り決め(特約条項)

夫婦の状況に応じて、以下のような細かい点についても取り決めておくと、後のトラブルを防ぐことができます。

① 夫婦間の貸し借りの清算
② 生命保険の受取人の変更
③ 子の氏(姓)の変更手続き
④ 離婚後の連絡方法
⑤ ペットの引き取り手

⑸ 不利な合意をしていないかの確認

弁護士に相談する前に、相手方との間で離婚に関する合意書を交わしたり、メールなどで一方的に慰謝料を放棄するなどの意思表示をしていないかを確認する必要があります。一度した合意を覆すことは困難な場合があるため、安易に書面に署名したり、不利な内容のメッセージを送ったりしないよう注意が必要です。

まとめ

離婚は、感情的な対立だけでなく、法律やお金、子どもの問題など、決めなければならないことが多岐にわたります。焦って離婚を進めてしまい、後で「もっとこうすれば良かった」と後悔しないためにも、事前の準備が非常に重要です。本コラムで解説した準備事項を参考に、ご自身の状況を整理し、有利な条件で新たなスタートを切れるように、計画的に準備を進めていきましょう。ご自身での対応が難しいと感じた場合は、渋谷駅付近の馬場綜合法律事務所へお気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

馬場 洋尚
(ばば ひろなお)

東京都出身。
令和元年12月、渋谷駅付近で馬場綜合法律事務所を開設。
法的問題の最良の解決を理念とし、離婚、相続、遺言、一般民事、企業法務など幅広く手がけています。その中でも離婚・男女問題には特に注力して活動しています。ご依頼者の方と密接なコミュニケーションを取りつつ、ひとつ一つのご案件に丁寧に接することを心掛けています。

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