子どもがいる夫婦が離婚をする場合、子どもの親権者はどのようにして決定される?

目次
はじめに
渋谷駅付近で馬場綜合法律事務所を運営している弁護士の馬場洋尚と申します。このコラムでは、子どもがいる夫婦が離婚をする場合、子どもの親権者はどのような事情を考慮して決定されるのかについて解説します。
親権に関する原則的な規律
婚姻中の父母は、未成年の子に対して共同で親権を行使しますが(共同親権)、離婚する場合には、原則として、父母のどちらか一方を親権者として定めなければなりません(単独親権)。これは、離婚によって父母の協力関係を維持することが難しくなるため、子の監護や教育に関する責任者を明確にするためです。
親権者の決定方法は、離婚の方法によって異なります。
- ・ 協議離婚の場合:父母間の話し合い(協議)によって、どちらか一方を親権者と定めます。この合意内容は離婚届に記載する必要があり、親権者の記載がない離婚届は受理されません。したがって、親権者について合意できなければ、協議離婚は成立しません。
- ・ 裁判上の離婚(調停・審判・訴訟)の場合:父母間の協議で親権者が決まらない場合は、家庭裁判所の手続きを利用することになります。実務上は、離婚調停を申し立て、その中で親権者についても話し合うのが一般的です。調停でも合意に至らない場合は、審判や訴訟(裁判)に移行し、最終的に裁判所が父母のどちらを親権者とするかを判断・決定します。
なお、親権者とは別に、子の身の回りの世話や教育を行う「監護者」を定めることも可能です。これにより、例えば親権は父が持ち、子の監護は母が行うといったように、親権と監護権を分けることもできます。
裁判所による判断の考慮要素
裁判所が親権者を指定する際には、特定の法律上の基準が細かく定められているわけではありません。裁判所は、「子の利益(子の福祉)」を最も重要な判断基準とし、どちらの親を親権者とすることが子にとって最も幸福かという観点から、以下の⑴~⑺のような様々な事情を総合的に比較・検討して判断します。
⑴ 主たる監護者(監護の実績)
裁判所は、これまで主に子の監護・養育を担ってきた親がどちらであるかを重視します。これを「監護の実績」や「主たる監護者の優先」といいます。長期間にわたり安定して子を監護してきた実績がある親が、引き続き監護することが子の精神的な安定につながると考えられるためです。裁判例でも、これまで主に子と生活を共にしてきた親を親権者と指定する傾向が見られます。
⑵ 監護の継続性
現在の監護状況を維持することが、子の福祉にかなうという考え方です。親権者の変更によって、子の生活環境(転居、転校など)が大きく変わることは、子にとって大きな精神的負担となる可能性があります。そのため、特段の問題がない限り、現在の安定した監護環境を継続することが優先される傾向にあります。裁判例においても、現在の監護状態を変更することが「子の福祉上耐え難い」として、現状の監護を継続させる判断がなされたケースがあります。
⑶ 監護態勢・監護環境
親自身の監護能力に加えて、監護をサポートしてくれる環境が整っているかも考慮されます。
経済力:親の収入や資産などの経済力も考慮要素の一つですが、それだけで親権者が決まるわけではありません。経済的に劣る側であっても、相手方からの養育費の支払によって子の生活を維持できると判断されれば、親権者として認められることは十分にあります。裁判例でも、経済的な優位性は必ずしも親権者指定の決定的な要因にはならないとされています。
監護補助者の存在:親が仕事などで不在の際に、祖父母など監護を手伝ってくれる親族(監護補助者)がいるかどうか、またその協力体制も評価されます。裁判例では、監護補助者がいないことや、双方の親(子の祖父母)の監護能力を比較検討したケースもあります。
⑷ 監護能力・適格性
親自身の資質も重要な判断材料です。
心身の健康状態:子を監護する上で、親の心身が健康であることは重要な要素です。
子への愛情と監護意思:子に対する愛情や、責任をもって育てようとする意思があるかどうかが問われます。裁判例では、親としての自覚や責任感、子の利益を重んじる考え方が、親権者を定める上で重要な要素であると判断されています。
離婚の有責性や過去の行為:婚姻中の不貞行為や暴力など、離婚の原因となった行為(有責性)も、親としての適格性を判断する上で考慮されることがあります。特に、子が幼児であるにもかかわらず不貞行為に及んだことなどが、監護意思や適格性を疑わせる事情として判断された裁判例(福岡高決平成27年1月30日・判例時報2283号47頁)もあります。
⑸ 子の意思
子の年齢に応じて、その意思が尊重されます。特に、おおむね10歳以上の子については、どちらの親と暮らしたいかという意向が重視される傾向にあります。家庭裁判所が審判や裁判を行う際には、15歳以上の子の陳述を聴かなければならないと定められています。
ただし、子の意思が絶対的なものではありません。一方の親に言いくるめられていたり、親に気を遣って本心を言えなかったりする可能性も考慮し、子の真意を慎重に判断します。また、子の意思を聴取する際には、子に精神的な負担をかけないよう、細心の注意が払われます。
⑹ 兄弟不分離の原則
兄弟姉妹がいる場合、彼らが共に生活し成長することは、情緒の安定や人格形成にとって非常に重要であると考えられています。そのため、特段の事情がない限り、兄弟姉妹を分離せず、同じ親がまとめて親権者となるべきという「兄弟不分離の原則」が考慮されます。裁判例でも、兄弟が日常生活を共にすることの重要性が指摘されています。
⑺ 面会交流への許容性
離婚して子と離れて暮らす親(非監護親)と子が定期的・継続的に交流すること(面会交流)は、子の健全な成長にとって重要であると考えられています。そのため、親権を希望する親が、他方の親と子との面会交流に対して協力的・寛容的な姿勢であるかどうかも、親権者としての適格性を判断する上で重要な要素となります。面会交流に非協力的な態度は、親権者として不適格であると評価される一因となり得ます。
家庭裁判所による親権に関する調査方法
親権について父母の意見が対立し、調停や審判、訴訟に至った場合、家庭裁判所は判断の基礎資料を得るために、専門の職員である「家庭裁判所調査官」に調査を命じることがあります。調査官は、心理学や社会学、教育学などの専門知識を持つ中立・公正な立場で、子の福祉の観点から事実の調査を行います。
調査官が行う調査の具体的な事項は、これまで述べた裁判所の判断要素と重なります。具体的には、以下のような点が調査の対象となります。
- ・ これまでの監護状況(主たる監護者は誰か)
- ・ 現在の監護状況と生活環境の安定性
- ・ 父母それぞれの心身の健康状態、経済状況、監護能力
- ・ 祖父母などの監護補助者の有無や協力体制
- ・ 子の年齢、発達段階、就学状況
- ・ 子自身の意思や意向
- ・ 離婚に至る経緯や父母間の対立状況
- ・ 面会交流に対する父母それぞれの考え方
まとめ
このコラムでは、子どもがいる夫婦が離婚する際の親権者の決定方法について解説しました。親権者の決定において最も大切なことは、父母どちらの都合でもなく、一貫して「子の利益(福祉)」が最優先されるという点です。
協議で親権者が決まらない場合、最終的には裁判所が判断しますが、その際には本稿で解説した様々な事情が総合的に考慮されます。親権を巡る争いは、当事者だけでなく、子どもにも大きな精神的負担をかける可能性があります。
親権について相手方と意見が対立している場合や、ご自身の状況でどのような点が有利・不利になるのかご不安な場合は、離婚問題に注力している渋谷駅付近の馬場綜合法律事務所へお気軽にお問い合わせください。
この記事を書いた人

馬場 洋尚
(ばば ひろなお)
東京都出身。
令和元年12月、渋谷駅付近で馬場綜合法律事務所を開設。
法的問題の最良の解決を理念とし、離婚、相続、遺言、一般民事、企業法務など幅広く手がけています。その中でも離婚・男女問題には特に注力して活動しています。ご依頼者の方と密接なコミュニケーションを取りつつ、ひとつ一つのご案件に丁寧に接することを心掛けています。