不貞・不倫慰謝料が認められるか否かや、その金額はどのような事情を考慮して決まる?

目次
はじめに
本コラムでは、不貞・不倫問題において、不貞・不倫慰謝料が認められるか否かや、慰謝料の金額はどのような事情を考慮して決定されるのかについて、実務や裁判例をもとに詳しく解説します。離婚や夫婦関係のトラブルに直面した際、慰謝料請求の可否や金額の目安、またどのような証拠や事情が重要となるのかを知る上で有益だと思いますので、是非ご一読ください。
不貞行為とは
不貞行為とは、判例上「配偶者以外の者と性交渉を持つこと」と定義されています。したがって、単なる親密な交際や食事、手をつなぐなどの行為のみでは不貞行為とは認められません。不貞行為があったと認められるためには、配偶者以外の者と性交渉をしたこと、または性交渉をしたと強く推認できる事実が必要です。
具体例としては、ホテルへの出入りや宿泊、深夜に二人きりで長時間過ごすなど、通常の友人関係を超える親密な行動が挙げられます。ただし、不貞行為は多くの場合、秘密裏に行われるため、直接的な証拠がなくても、状況証拠の積み重ねによって不貞行為が推認されることもあります。
相手方の故意又は過失が要件となる
(1) 故意又は過失の要件の説明
不貞・不倫があった場合に慰謝料請求権が発生するためには、相手方(不貞相手)に故意または過失があることが必要です。ここでいう故意とは、相手方が、特定人が既婚であることを知りながら肉体関係を持った場合をいいます。また、過失とは、肉体関係を持った特定人が既婚であることを知らなかったが、通常の注意を払えば知り得た場合をいいます。
裁判例では、例えば「被告はAが既婚者であることを知っていたか」「被告にAが既婚者であることを知らなかったことについて過失があるか」などの形で争点となります。
(2) 故意・過失が争点となった裁判例
不貞・不倫問題で相手方の故意又は過失が争点となった裁判例について、東京地方裁判所平成22年9月9日判決(平成21年(ワ)40353)を紹介します。
この事案は、不貞行為の相手方が、交際相手(既婚者)から「夫婦が離婚した」という話を聞いていたものの、実際には離婚が成立していなかったという状況下で、不貞行為に及んだケースです。原告(配偶者)は、不貞行為の相手方に対し、損害賠償を請求しました。争点は、不貞行為の相手方に故意または過失があったか、すなわち、相手方が既婚者であることを知っていたか、あるいは知り得たかという点にありました。
裁判所は、単に「夫婦が離婚した」という話を聞いただけで、直接交際相手に離婚の有無を確認していない場合には、不貞行為の相手方に過失が認められると判断しました。すなわち、相手方が婚姻関係の有無について十分な確認を怠ったことが過失と評価され、損害賠償責任を否定できないとされました。
この判決は、不貞行為の相手方が「独身だと信じていた」と主張しても、その信じるに足る合理的な根拠や、十分な確認行為がなければ、過失責任を免れないことを示しています。逆に、例えば不貞配偶者が一貫して独身を装い、相手方が独身と信じることに過失がないと認められる場合には、過失責任が否定されることもあります(東京地判平成23年4月26日(平成21年(ワ)34750))。
このように、不貞行為の相手方の故意または過失の有無は、損害賠償責任の成立に直結する重要な争点であり、相手方が婚姻関係の有無についてどのような認識・確認をしていたかが具体的事実関係として重視されます。
どのような要素が不貞・不倫慰謝料の金額に影響するか
不貞・不倫慰謝料の金額は、以下のような様々な事情を総合的に考慮して決定されます。
- ・ 不貞行為の期間(長期か短期か)
- ・ 不貞行為の回数や頻度
- ・ 不貞相手の人数
- ・ 不貞以前の婚姻生活の状況(既に別居していたか、婚姻関係が良好だったか等)
- ・ 婚姻期間や同居期間
- ・ 未成熟子(未成年の子)の有無
- ・ 当事者双方の経済力や資力
- ・ 不貞後の反省や謝罪の有無
- ・ 不貞相手と同居・妊娠・出産等の特別な事情
- ・ 被害者の心身への影響(うつ病等)
これらの事情が増額・減額要素として考慮され、個別具体的に慰謝料額が決まります。
不貞・不倫慰謝料の一般的な金額の幅は?
不貞・不倫慰謝料の金額は事案ごとに異なりますが、実務上では、50万円台~300万円台となる事案が多いです。高額な事案では、700万円の慰謝料が認められた例もありますが、これは例外的です。
裁判例のご紹介
(1) 慰謝料300万円を認定した裁判例
300万円の不貞・不倫慰謝料を認定した裁判例として、東京地方裁判所平成19年4月5日判決(平成18年(ワ)第15086号)があります。
事案の概要は、原告(妻)が、夫の不貞相手(被告女性)に対し、夫婦の婚姻関係が平穏であったにもかかわらず不貞行為を継続し、原告(妻)が再三にわたり夫と別れるよう求めたにもかかわらず、被告女性がこれを拒絶し続けていたこと等を理由に慰謝料を請求したというものでした。
裁判所の判断は、被告女性は、原告(妻)の妻たる地位を違法に侵害したものと認定し、上記事情を考慮して慰謝料300万円を認定しました。高額の慰謝料が認定された理由は、婚姻関係が平穏であったこと、不貞相手が妻からの度重なる関係解消の要請を拒否し続けたこと等が重視され、妻たる地位が強度に侵害されたと評価されたためと思われます。
(2) 慰謝料200万円を認定した裁判例
200万円の不貞・不倫慰謝料を認定した裁判例として、佐賀地方裁判所平成24年2月14日判決(判例時報2182号119頁)があります。
事案の概要は、婚約中に男性(元夫)が他の女性と性的関係を持ち、さらに結納後も当該女性に対して性的関係を執拗に求めていたという事実関係があったケースです。その後、元妻(原告)は、この不貞行為を理由に協議離婚し、精神的苦痛を被ったとして元夫(被告)に対し損害賠償請求訴訟を提起しました。
裁判所の判断では、婚姻期間、元夫の背信行為の重大性、元妻(原告)の被った精神的苦痛の大きさ などを総合的に勘案し、元妻(原告)の精神的損害に対する慰謝料として200万円を認定しました。本件では、婚約中から結納後にかけての不貞行為が継続していたこと、元妻(原告)の精神的苦痛が大きいことが重視されています。
(3) 慰謝料180万円を認定した裁判例
180万円の不貞・不倫慰謝料を認定した裁判例として、東京地方裁判所平成26年12月4日判決(平成25年(ワ)第31255号)があります。
事案の概要は、原告(妻)が、夫の不貞相手(被告女性)に対し、不法行為に基づく慰謝料請求をしたものであり、不貞行為自体は1回であしたが、その婚姻関係への影響等を踏まえ、180万円の慰謝料が認定されました。
(4) 慰謝料100万円を認定した裁判例
100万円の不貞・不倫慰謝料が認定された裁判例として、東京地方裁判所平成19年3月28日判決(平成16年(ワ)第26472号)をご紹介します。
原告X(妻)は、夫Aと不貞関係にあった被告Y(女性)に対し、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)を請求しました。原告Xと被告Yの婚姻期間は38年間でした。その後、夫Aは、被告Yと同居を開始しましたが、同居以前に夫婦関係が完全に破綻していたとは認められませんでした。また、被告Yが夫婦関係が完全に破綻していると信じていたとも認められませんでした。
裁判所の判断は、夫Aと被告Yの同居開始以前に、原告Xと夫Aの婚姻関係が完全に破綻していたとはいえないこと、被告Yがそのように信じていたとも認められないことから、被告Yの損害賠償責任を認定しました。
さらに、夫Aが複数の女性と同居を伴う交際や内縁関係にあった経歴や、被告Yと夫Aの同居後の原告Xは夫Aの自宅(アメリカ)を訪問しなくなったことなど、諸般の事情を総合的に考慮し、慰謝料額を100万円と認定しました。
本件では、夫婦の婚姻期間は38年と長期間に及ぶものの、夫側が複数の女性との間で同居を伴う交際や内縁関係にあったという経歴を有していたことなどから、夫婦の婚姻関係の円満度合いがそれほど強固だったものとは認められず、比較的、低額な100万円という慰謝料が認定されました。
(5) 慰謝料50万円を認定した裁判例
50万円の不貞・不倫慰謝料を認定した裁判例として、東京地方裁判所平成19年6月4日判決(平成18年(ワ)第21435号)があります。
本件は、夫の不貞行為により婚姻関係が破綻したとして、妻が不貞相手の女性に対して慰謝料を請求した事案です。原告XはAの妻、被告YはAの不貞相手(女性)、Aは原告Xの夫です。夫婦の婚姻期間は20年でした。また、夫婦の間には子が1名いました。夫Aと被告Yは、夫婦関係が継続しているにもかかわらず不貞行為に及びました。不貞行為の事実が明るみになった後も、被告Yは約1年間にわたり不貞行為を継続しました。その結果、原告XとAの婚姻関係は破綻に至りました。
裁判所の判断では、被告Yが夫Aに配偶者がいることを知りながら不貞行為を継続し、しかも不貞行為の発覚後も約1年間にわたり関係を続けたことを重視しました。これにより、原告XとAの婚姻関係が破綻したと認定されました。他方で、被告Yは、夫Aが既婚であることを知るまでは、同人との結婚することを真に期待していたという事情も認められ、この事情が減額要因として考慮され、最終的には、被告Yの慰謝料は50万円と低額な認定となりました。
まとめ及び弁護士の実践知
不貞・不倫慰謝料が認定されるための要件や、慰謝料の金額を算定する際の考慮要素は以上のとおりとなります。本記事を読まれた方は、慰謝料の金額は思った以上に低いと感じたのではないでしょうか。
以上の話は、あくまでも裁判基準、すなわち、民事訴訟の判決を前提とした内容になります。弁護士が代理人となった交渉においては必ずしも妥当するわけではありません。
現在の法制度では「私的自治の原則」ないし「契約自由の原則」が基本原理とされており、原則として、法令や判例の内容よりも、私人間の合意内容が優先されます。不貞・不倫慰謝料の局面で言えば、仮に、裁判基準で考えれば50万円の慰謝料が妥当だとしても、当事者間で200万円の慰謝料の支払合意をすれば、合意内容の方が優先されることになります。
このところに、交渉の余地、あるいは、交渉の奥深さがあります。弊所では、民事訴訟に先立ち、相手方との交渉を試みることを心掛けています。それによって、ご依頼者の要望事項の最大化を目指します。不貞・不倫慰謝料案件では、ご依頼者及び相手方の双方ともに、重視している事項が異なります。中には、不貞・不倫をした配偶者夫と不貞相手の女性との関係の断絶が最大の目的であり、この目的を実現できるのであれば慰謝料は要らないという方もいらっしゃいます。不貞・不倫慰謝料案件においても、ご依頼者及び相手方の要求事項、目的、関心事項など最良の解決のために必要な情報を取得することが最も肝要です。ご依頼者及び相手方の十分な情報が取得できれば、それを前提とした最適解を提案可能になります。弊所では、このように、ご依頼者及び相手方の情報を可能な限り取得した上で、最良の解決策を提案するように心掛けています。
不貞・不倫慰謝料問題でお困りの方がいらっしゃいましたら、是非、弊所へお気軽にお問い合わせくださいませ。
この記事を書いた人

馬場 洋尚
(ばば ひろなお)
東京都出身。
令和元年12月、渋谷駅付近で馬場綜合法律事務所を開設。
法的問題の最良の解決を理念とし、離婚、相続、遺言、一般民事、企業法務など幅広く手がけています。その中でも離婚・男女問題には特に注力して活動しています。ご依頼者の方と密接なコミュニケーションを取りつつ、ひとつ一つのご案件に丁寧に接することを心掛けています。