離婚コラム

セックスレスは、離婚の理由(離婚原因)になる?

はじめに

離婚をする際、夫婦双方が合意すれば協議離婚が可能です。しかし、一方が離婚に同意しない場合には、離婚調停を経た上で、離婚訴訟を提起し、離婚判決を得る必要があります。離婚判決が認容されるためには、法律上の離婚原因が必要となります。

民法770条1項は、離婚判決が認められる具体的な事由を定めており、これに該当しなければ裁判所は離婚を認めません。本コラムでは、夫婦がセックスレスに陥った場合に、それが法律上の離婚原因となるのかについて、裁判例や実務の考え方をもとに詳しく解説します。

セックスレスとの関係で問題となる離婚原因

民法770条1項は、裁判離婚が認められる事由として、

  • ① 配偶者に不貞な行為があったとき
  • ② 配偶者から悪意で遺棄されたとき
  • ③ 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
  • ④ 配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがないとき
  • ⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき

を挙げています。このうち、セックスレスが直接該当しうるのは、⑤「婚姻を継続し難い重大な事由」(5号)です。セックスレスがこの重大な事由に該当するかどうかは、夫婦関係の破綻の程度や経緯、双方の努力や事情など、個別具体的な事情を総合的に判断して決められます。

夫婦間の性生活は、婚姻生活の重要な要素の一つとされています。性交渉の拒絶や性的不能、性的指向の違いなどがある場合、直ちに離婚原因となるわけではありませんが、これらが夫婦関係の破綻を招き、修復が困難な場合には「婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚が認められることがあります。

一方で、夫婦の一方が病気や高齢など身体的事情で性交渉に応じられない場合や、双方が話し合いを重ねて努力している場合には、直ちに離婚原因とならないこともあります。セックスレスが離婚原因となるかどうかは、単なる性生活の不一致だけでなく、夫婦関係全体の破綻や修復可能性の有無など、様々な事情が考慮されます。

セックスレスが離婚原因に該当するか否か問題となった裁判例

(1) 岡山地方裁判所津山支部判決 平成3年3月29日(判時1410号100頁)

この事案では、婚姻初夜から別居までの間、妻が男性との性交渉に耐えられない性質から性交渉を拒否し続けてきました。夫婦間の性交渉が一度もなく、妻が夫との性交渉を拒否したことにより、両者の融和を欠いて婚姻が破綻するに至ったと認定されました。裁判所は、婚姻が一般には子孫の育成を重要な目的としてなされるものであり、夫婦間の性交渉もその意味では通常伴うべき婚姻の営みであるとし、妻が婚姻しながら性交渉を拒否し続けたことが婚姻破綻の理由となると判断しました。本件は既に離婚が成立した後の慰謝料請求事件ですが、性交拒絶が婚姻破綻の理由として認められ、慰謝料請求も認容されました。

(2) 名古屋地方裁判所判決 昭和47年2月29日(判時670号77頁)

この事案では、結婚当初4か月ほどは正常な性交渉があったものの、その後夫が妻に対し性交渉を求めなくなり、妻からの求めにも応じず、さらに夫が他の男性と同性愛の関係になったことが判明しました。裁判所は、性生活が婚姻生活における重大な要因の一つであり、妻が数年間にわたり夫との正常な性生活から遠ざけられていたこと、夫の同性愛関係を知った妻の精神的衝撃の大きさなどから、夫婦間に正常な婚姻関係を取り戻すことは不可能であり、「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認め、妻からの離婚請求を認容しました。

(3) 福岡高等裁判所判決 平成5年3月18日(判タ827号270頁)

この事案では、夫が妻との性交渉を拒否し、ポルノビデオを見て自慰行為に耽るなどの行動が続きました。妻は夫婦関係の修復を試みましたが、夫は応じず、夫婦間の精神的結合が失われていきました。裁判所は、夫の行動が「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するとして、妻からの離婚請求を認めました。性生活の拒否や性的な不調和が、夫婦関係の破綻をもたらす重大な要因となりうることが示された事例です。

(4) 東京地方裁判所判決 平成29年8月18日(判タ1471号237頁)

この事案では、夫婦間に性的な接触が全くなかったことにより、妻が不安を感じて夫にそのことを伝えたにもかかわらず、夫の態度に変化がなかったため、夫婦間の精神的結合にも不和が生じ、婚姻関係が破綻しました。裁判所は、夫婦間の性的な営みは婚姻関係の重要な基礎であり、これが欠如したことで婚姻関係が破綻した場合、破綻を招いた側に不法行為が成立すると判断し、慰謝料請求を認めました(慰謝料の認容額は50万円)。

(5) 大阪地方裁判所判決 昭和35年6月23日(判時237号27頁)

この事案では、夫が妻の意思に反して、性交に際し布団の上で靴を履かせるなどの異常な性交方法を繰り返し強行しました。その結果、夫婦間に絶望的な不調和が生じ、結婚生活は完全に破綻しました。裁判所は、夫の行為が自己の恣意的異常行為に基づくものであり、その帰責原因を夫が負うべきであるとし、「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在すると認定しました。

まとめ

セックスレスは、単に性生活がないというだけで直ちに離婚原因となるわけではありません。しかし、理由もなく長期間にわたり性交渉を拒否し続ける場合や、夫婦間の努力にもかかわらず関係が修復できない場合、または性的不能や性的指向の違いなどが夫婦関係の破綻をもたらしている場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」として裁判所が離婚を認めることがあります。

実際の裁判例でも、セックスレスや性的不能、性的指向の違い、異常な性交方法などが原因で夫婦関係が破綻し、離婚が認められたケースが複数存在します。ただし、個別の事情や夫婦間の努力、身体的事情なども考慮されるため、必ずしも全てのセックスレスが離婚原因となるわけではありません。離婚を検討する場合は、まず夫婦間で十分に話し合い、必要に応じて専門家に相談することが重要です。

最終的には、事案ごとに事実関係を詳細に検討し、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるかどうかを裁判所が判断します。セックスレスを理由に離婚を考えている方は、証拠の収集や主張立証のポイントについても専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

この記事を書いた人

馬場 洋尚
(ばば ひろなお)

東京都出身。
令和元年12月、渋谷駅付近で馬場綜合法律事務所を開設。
法的問題の最良の解決を理念とし、離婚、相続、遺言、一般民事、企業法務など幅広く手がけています。その中でも離婚・男女問題には特に注力して活動しています。ご依頼者の方と密接なコミュニケーションを取りつつ、ひとつ一つのご案件に丁寧に接することを心掛けています。

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