離婚コラム

養育費・婚姻費用が払われない場合の対応方法

養育費・婚姻費用とは?

(1)養育費とは、未成熟の子どもが社会的・経済的に自立するまでに必要な生活費や教育費を、親の一方が他方に対して分担する金銭をいいます。離婚後も、監護親(子どもと同居している親)は非監護親に対して、養育費を請求することができます。

(2)婚姻費用とは、夫婦が婚姻関係にある間(たとえ別居中であっても)、夫婦およびその子の生活を維持するために必要な費用です(民法760条参照)。

(3)婚姻費用は、離婚前の夫婦間に生じる費用であり、養育費は、離婚後に男女間に子どもがいるケースで生じる費用であると整理しておくと分かりやすいです。

支払義務の法的性質―養育費・婚姻費用は相手方が破産しても請求できる!

養育費・婚姻費用は、いずれも扶養義務に基づく債権であり、一般の金銭債権とは異なり、強い法的保護を受けています。したがって、支払義務者が破産手続や免責決定を受けたとしても、原則としてこれらの債権は免責の対象とならず、請求が可能です(破産法253条1項4号)。

差押えによる強制執行―強制執行の場合でも養育費・婚姻費用は強い保護を受ける!

(1)養育費・婚姻費用が支払われない場合、債務名義(調停調書、審判書、判決書、公正証書など)に基づき、強制執行を申し立てることが可能です。差押えの対象となる財産には、給与、預貯金、不動産などがあります。

(2)給与債権の差押え可能額は、以下のとおりであり、婚姻費用・養育費は、他の債権よりも強い法的保護を受けています。
・一般の債権の場合:給与額の25%まで差押え可能(給与の75%は差押禁止)
・養育費等の扶養義務に基づく債権の場合:給与の50%まで差押え可能(民事執行法152条3項) 

(3)さらに、婚姻費用・養育費の滞納分のみならず、将来分の養育費についても差押えが可能です(民事執行法151条の2)。

養育費・婚姻費用に関する不払いの予防策

はじめに

養育費・婚姻費用が支払われない事態を避けるために、事前の予防策を講じておくのが大切です。

自動振込みの利用

養育費・婚姻費用についても、銀行の自動振込みサービスを利用することが効果的です。一度、自動振込みの登録を行えば、指定した日に自動的に振込みが実行されることになります。相手方の給与の振込口座から、振込日に自動的に振り込まれる自動振込みサービスを利用すれば、事実上の履行確保手段となります。

公正証書の利用

万が一、養育費・婚姻費用が払われない事態に備えて、不払いがあった場合には、直ちに強制執行が可能な状態を確保しておくことが重要です。

養育費・婚姻費用が払われなかった際に、強制執行を行うためには、債務名義(調停調書、審判書、判決書、公正証書など)を有していることが必要です。

公正証書は、比較的、簡易に実現できる債務名義になります。調停や審判などの裁判手続を介さずに、婚姻費用・養育費の合意をする場合には、公正証書を利用することを推奨いたします。公正証書は、適式な形で作成すれば、判決書と同等の効力が認められ、婚姻費用・養育費が払われなった場合には直ちに強制執行が可能となります。

養育費・婚姻費用の不払い時の対応策

はじめに

養育費・婚姻費用の不払いの場合には、①履行勧告、②履行命令、③強制執行という法的な対応策があります。後者に従うにつれてより強力な法的措置になります。以下、概要の説明をいたします。

履行勧告、履行命令

履行勧告とは、家庭裁判所に申し立てを行い、調査官を通じて義務者に対し履行を勧告する措置をいいます(家事事件手続法289条)。無料で申し立て可能ですが、強制力はありません。

相手方が養育費・婚姻費用の支払いを行わない場合、権利者の申立てにより、家庭裁判所は、一定期間内に支払いを命じることができます。これは履行命令と呼ばれています(家事事件手続法290条)。正当な理由なく従わなかった場合、10万円以下の過料が科されます(同条)。

しかし、履行勧告、履行命令には、デメリットもあります。それは、履行勧告、履行命令を先行させると、相手方に対し、これに続く強制執行を想起させ、預金口座を解約したり、預貯金をすべて引き出したりするなど強制執行の対策を誘発する可能性があるためです。履行勧告、履行命令を行う際には、よく相手方の性格や特性を考えて行う必要があります。

強制執行

養育費・婚姻費用が払われない場合、債務名義(調停調書、審判書、判決書、公正証書など)があることを前提として、義務者の不動産、預貯金、給与などを対象とした強制執行が可能です。

相手方の財産を十分に把握していない場合―財産開示手続の活用

はじめに

強制執行を実効的に進めるには、義務者の財産情報(勤務先、預貯金の内容、不動産)を把握しておく必要があります。

財産開示手続の概要

  • ① 養育費・婚姻費用が払われず、かつ、相手方の財産が不明な場合には、財産開示手続の申立てを行うことが効果的です。
  • ② 財産開示手続を申立てるには、同様に債務名義(調停調書、審判書、判決書、公正証書など)が存在することが前提となります。

財産開示手続のうち重要な効果

  • ① 財産開示手続が申立てられると、相手方は自身の財産の概要を記載した財産目録を裁判所へ提出する義務を負います(民事執行法施行規則183条)。また、相手方は、開示期日に出頭し、宣誓のうえで、現在有している財産について説明する義務が生じます(民事執行法199条1項、同条9項が準用する民事訴訟法201条)。
  • ② 正当な理由なく財産開示期日に出頭しなかったり、虚偽の陳述をした場合は、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰が科されます(民事執行法213条)。この刑事罰のサンクションが非常に強力な効果を発揮することが期待できます。電話、文書による督促、履行勧告や履行命令を無視してきた相手方も、財産開示手続を申立てると、出頭してくるケースがあります。
  • ③ 弊所の取り扱い事例においても、電話、書面による通知、民事訴訟の提起を無視し続けてきた相手方であっても、財産開示手続を申立てると、出頭したり、一定の説明をしてくるケースがございました。

婚姻費用・養育費の回収が困難なケース

相手方の住所が不明で、かつ、財産も不明な場合

相手方の住所が不明で、かつ、財産も不明な場合は、強制執行等の手続を行うことが困難なケースが多く、事実上、婚姻費用・養育費の回収は難しいです。この場合には、まずは、相手方の住所を把握するための措置に注力することになります。

相手方に収入や財産がほとんどない場合

相手方に収入や財産がほとんどない場合にも、事実上、婚姻費用・養育費の回収が困難なことが多いです。ただし、生活保護を受けている場合でも、養育費の支払義務は残り、月数千円程度の履行が命じられることもあります。

また、相手方が存命の場合には、生存している以上は、生活保護なども含めて何かしらの収入を得ているケースが大半です。相手方が収入を得ている以上は、婚姻費用・養育費が発生する可能性は十分にあり得ます。

まとめ

  1. 養育費・婚姻費用は、子どもや配偶者の生活を守るための重要な制度であり、強い法的保護を受けています。相手方から婚姻費用・養育費が払われない場合でも、履行勧告、履行命令、強制執行、財産開示手続など、複数の法的手段を講じることができます。
  2. 実効的な回収のためには、
    • ① 債務名義の確保
    • ② 財産情報の把握
    • ③ 早期の専門家への相談
    が非常に重要です。困難な事案であっても、法的手段を適切に活用すれば、解決への道は開かれます。婚姻費用・養育費が払われず、お困りの方がいらっしゃいましたら、弊所へお問い合わせくださいませ。

この記事を書いた人

馬場 洋尚
(ばば ひろなお)

東京都出身。
令和元年12月、渋谷駅付近で馬場綜合法律事務所を開設。
法的問題の最良の解決を理念とし、離婚、相続、遺言、一般民事、企業法務など幅広く手がけています。その中でも離婚・男女問題には特に注力して活動しています。ご依頼者の方と密接なコミュニケーションを取りつつ、ひとつ一つのご案件に丁寧に接することを心掛けています。

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